【海賊とよばれた男】_百田直樹氏 -映画を観る前のネタバレなしレビュー-

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【海賊とよばれた男】がとうとう映画化される。

原作は何度か読んでいるが、配役が楽しみだった。

岡田准一ならイメージ通りに演じてくれること間違いない。


【あらすじ】

主人公は国岡鐵造。

国岡商店の創業者だが、モデルは出光興産創業者の出光佐三氏である。


彼は当時のエリート校、神戸高商を卒業後、大手企業への道を蹴り、社員数3人の酒井商会へ入った。

そこで丁稚奉公のような状態で働き、商売のイロハを覚えながら成果を挙げ、2年後に国岡商店を立ち上げた。

そこから、たった一代で世界でも有数な大企業になるまでの、とてつもない苦難の道程が書かれている。




-戦後の混乱期-

ストーリーは終戦後の危機的な状況から始まる。

しかもただの危機ではない。

戦時中の混乱で、国岡商店もほとんどの資産を失くしており、石油会社なのに売る石油が全くない状態だったのだ。


そんな中、店主の国岡鐵造はある決意を行った。

「社員を一人もクビにしない」と明言し、それを実行したのである。

何か秘策があっての決意ではなかった..。


国岡鐵造はまれに見る決断力、行動力があり、揺るぎない信念を持ち、多くの人を惹きつける人望もあった。

そのため、彼のもとには多くの人財が集まり、そして育ってきていた。

だからこそ「馘首(カクシュ)はならん!」だったのだ。


売るものがない中、国岡鐵造は石油とは全く関係のない事業を始めることになる。

どう考えてもリスキーだが、なりふり構っていられなかったというのが実際だろう。

その後、GHQからは無理難題を課せられ、自国の石統(石油統制会社)さえ敵に回った。
それでも国岡鐵造は社員全員を団結させ、苦しみながらも負けずに乗り切り、再び石油を販売できるようになるが..。



-若き日の国岡鐵造-

ここで一旦、戦前に話は戻る。
国岡鐵造は、まだ学生の時、その後の一生を左右することになる日田重太郎と出会う。 

立志伝中の人には必ず、こういった出会いがあるものだが、この日田重太郎という人間のスケールはまた桁違いだ。

確かに金持ちには違いないが、普通誰もできないような方法で鐵造を助ける。

もちろん鐵造はそれを終生忘れず、二人の友情は一生涯続く。


明治44年、国岡鐵造は25歳で、九州の門司で国岡商店を旗揚げする。

日邦石油より機械油を仕入れ、念願の石油販売を始める。

鐵造自身も結婚して身を固め、商売に邁進するが、赤字が続き思うようにいかない。


もう駄目だと言う時、やはり日田重太郎に助けられる。

その後、軽油を売る際に、後に「海賊」とよばれることになるやり方で行う。

それをきっかけに販路を拡大した国岡商店は、やがて満州、そして東南アジアにまで進出する。


しかし、大きな人や企業がそうであったように、国岡商店も第二次世界大戦に巻き込まれていき、やがて冒頭の重大な岐路を迎える。




-外国資本との闘い-

ようやく戦後の混乱期を越えたが、心休まる暇もなく、次から次へ苦難が訪れる。


・石油タンクがなければ、石油の元売り会社として認められない。

 果たして石油タンクを造るための、融資は受けられるのか?


・アメリカやイギリスの外油が次々に横槍を入れてくる。

 周囲の反対を押し切り、外油と闘うために石油タンカーを持つことを決意する。果たして?


・新田辰男船長と出会い、輸入目的でアメリカへ。

 果たして石油を仕入れられるのか?そこでの新たな出会いとは?



-イランとの取引、そして日章丸事件-


外油(石油メジャー)との闘いで優位に立つため、国岡商店はイランと接触する。

様々な困難を乗り越え、イランへタンカーを派遣し、石油を運んでくることになるのだが、それには想像を絶する危険が伴っていた。

コンプライアンスなどにこだわる現在だったら、まずできないだろう。

冒険と呼ぶにはあまりにも危険な「賭け」に出た国岡商店には、政府も銀行も保険会社も皆、それを承知の上で味方した。

そしてその結果は、当時の新聞を連日一面で飾ることになる。



-製油所建設、そして英雄去る-

これで安泰かと思いきや、またもや石油メジャーに横槍を入れられる。

それに対して鐵造は製油所建設を決意。

さて、場所は?規模は?融資は?工期は?
どれ一つとして失敗は許されない。


その後、大企業にまで成長した国岡商店から、鐵造は勇退し、後進に道を譲った。

物語の終わりの方に、鐵造自身に一つのエピソードがあった。

それは今まで全力で物事に取り組んできた鐵造への、神様からのご褒美だったに違いない。

95歳で英雄は去った。



【感想】

様々な危機を乗り越えられたのは運も良かったからだ、というだけでは到底片付けられない。

大義のために私利私欲を捨てる、困難にただぶつかるだけではなく、できる準備はすべて行う、

正に「人事を尽くして天命を待つ」の状態だったからこそ、天は味方してくれたのだろう。


単なるラッキーなど一つもない。

諦めたらおしまい、というギリギリの状況が連続して訪れたのである。

あらすじだけを追っていくと、こんなにうまくいくはずがない、これは物語だよと思うかもしれない。

しかし、この内容が事実に基づいたものであることは 出光興産の社歴を見ることで、
よりはっきりする。


知力でも体力でもない(もちろん必要だが)。

やり抜こうとする意思が何よりも重要だと、否応がなしに気付かされる。

そして、鐵造は普段からとても周囲の人たちを大切にする。

家族や社員だけではない。

取引先もその周囲の人も初対面の人もである。


甘くはない。

時には厳しく接する。

しかし、とても思いやりに溢れている。

これはできそうでできない。


慢心している時、余裕がない時、平常時でない時、大概の人は自分のことしか考えられない。

鐵造はそうではなかった。

だからこそ接した相手から、ここぞという時に助けられることが多い。

また、全力で物事を行う人間に対して、人は協力したくなるものだ。


しかし、どれほどのものを持っていても、一人の人間。 

決断したものの、思うようにいかず、悩み、苦しみ、怒りで押しつぶされそうになりながらも、幾度も危機を乗り越えていく。
そして、その間もやはり社員をクビにすることはなかった。


「社員は家族である」

このように言われる経営者の方は多いかと思う。

しかし、突発的な出来事で会社がピンチに陥るとあっさり社員をクビにしたり、ひどいと会社を畳んでしまう。


私自身もそのような目にあったことがある。

最初は経営者を恨んだりもしたが、今は特に思うところもない。

経営者も普通の人間だったんだ。

会社から逃げ出したくなるくらい大変だったんだな~と思うくらいだ。



それだけに国岡鐵造の凄さが際立つ。

またそれに全力で答える社員も凄い。

それが如実に表れている物語である。

経営者だけでなく、壁にぶつかっている全ての方々にお勧めしたい。


今現在、国岡商店、もとい、出光興産は合併問題やら何やらで揺れているようだ。

出光佐三氏が健在だったらどうするであろうか?

原作を読むとはっきり分かるが、今回の合併など最初から検討すらされなかっただろう。

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